グラニテで駆ける子ども
これは、かき氷帝国に伝わる不思議な乗り物のお話です。
帝国の北の町に、走ることが大好きな白ウサギの子どもがいました。
雪原を駆ければ、長い耳が風になびきます。
町の子どもたちの中でも一番の速さでした。
ところが去年の雪祭り。
大勢が見守る競走で、その子は派手に転んでしまいました。
観客のどよめきが聞こえます。
恥ずかしくなったその子は、途中で走るのをやめてしまいました。
それから競走には出ていません。
明日は一年ぶりの雪祭りです。
「やっぱり、走りたくないな」
その夜。
眠りについた子どもの耳に、不思議な音が届きました。
ことん。
ことん。
しゅるるるる。
窓の外に青白い列車が浮かんでいます。
雪を削りながら夢の中を走る、幻の乗り物。
〈霜削車グラニテ〉です。
扉が開くと、青いローブを着たペンギンの少女が立っていました。
「乗ってみますか?」
子どもがおそるおそる乗り込むと、グラニテは夜空へ飛び出しました。
星の間を抜け、雲の谷を越えていきます。
その時です。
強い風が吹き、先頭の青い灯が外れてしまいました。
灯は雪原へ落ちていきます。
グラニテも静かに止まりました。
「あの灯がないと、走れないの?」
「この先へは進めませんね」
少女が答えると、列車の扉が開きました。
子どもは雪原へ降り、青い灯を追いかけました。
けれど急いだ拍子に足を滑らせます。
去年と同じように、雪の上へ転んでしまいました。
「やっぱり、ぼくには無理だよ」
後ろを振り返ると、グラニテはまだそこにいました。
少女も何も言わずに待っています。
子どもは雪を払い、もう一度立ち上がりました。
凍った場所では歩きました。
雪が浅い場所では走りました。
転びそうになったら立ち止まりました。
そして最後は雪へ飛び込み、青い灯を両手でつかみました。
灯を先頭へ戻すと、グラニテは大きな汽笛を鳴らしました。
青い光が夜空を照らします。
「どうして、もう一度立ち上がれたのです?」
少女が尋ねました。
子どもは少し考えてから答えました。
「転んでも、また走りたかったから」
少女は優しく笑いました。
「では、これはあなたの願いの証です」
少女が渡したのは、雪の結晶が刻まれた銀色の靴留めでした。
子どもが靴へつけると、グラニテは再び夜空を走り始めました。
翌朝。
子どもは箱にしまっていた靴を取り出しました。
そのひもには、夢で受け取った銀色の靴留めが輝いています。
雪祭りの競走が始まりました。
足はまだ震えていました。
それでも子どもは、みんなと並んで走り出します。
途中の曲がり角で足を滑らせました。
また雪の上へ転んでしまいます。
仲間たちの背中が遠ざかっていきました。
子どもは銀色の靴留めへ触れます。
そして雪を払い、自分の足で立ち上がりました。
一番にはなれませんでした。
けれど今度は最後まで走りきりました。
遠くの雪山から、グラニテの汽笛が聞こえたような気がしました。
そして今も、子どもが困難に立ち向かおうとする夜。
グラニテは時を駆け、夢の中へ現れるのです。