ニンゲンノヒカリ
むかしむかし。
夜の長い雪国に、小さな町がありました。
町の真ん中には高い塔が建っていました。
その頂上には、とても大きな灯がありました。
灯は町のどこからでも見えました。
雪の夜も。
月のない夜も。
大きな灯が町の道を明るく照らしていました。
「この灯があれば、町はずっと明るいままだ」
町の人たちはそう信じていました。
家に小さな灯を置く者はいなくなりました。
暗くなれば、みんなが塔を見上げます。
灯をともす方法を知っているのは、城で働く一人の番人だけでした。
ある年の冬。
黒い雲が町の空を覆いました。
大きな灯は何度か弱くまたたき、とうとう消えてしまいました。
月も星も見えません。
町は深い闇に包まれました。
人々は外へ出られなくなりました。
雪に埋もれた道も見えません。
隣の家へ行くことさえできませんでした。
「お城の番人が直してくれる」
人々は家の中で待ちました。
一晩待ちました。
二晩待ちました。
それでも大きな灯はつきません。
三日目の夜。
町の外から二人の旅人がやってきました。
獣の耳も尾も持たない、不思議な少年と少女でした。
少年は小さな明かりを持っていました。
少女はその明かりで古い地図を読んでいました。
町の人たちは二人を家の中へ招きました。
「その小さな灯で、町を明るくできますか」
一人の老人が尋ねました。
少年は首を横に振りました。
「この灯だけでは無理です」
それを聞いた人々は肩を落としました。
けれど少女は、近くにあった油と細い糸を手に取りました。
少女が作ったものへ少年の灯を近づけると、もう一つの小さな光が生まれました。
「一つの灯だけでは、町を照らせません」
少女は言いました。
「でも一つの灯から、次の灯をともすことはできます」
二人は町の人たちへ、小さな灯の作り方を教えました。
教わった老人は、隣の家へ伝えました。
隣の家のパン屋は、向かいの家へ伝えました。
向かいの家の子どもは、友だちの家へ走りました。
一つだった光が二つになりました。
二つの光が四つになりました。
やがて町のあちらこちらに、小さな光がともり始めました。
小さな光は、大きな灯ほど遠くを照らせません。
それでも玄関の前は見えました。
家族の顔も見えました。
隣の家まで続く道も見えました。
人々は灯を持ち寄り、雪に埋もれた道を掘りました。
けがをした者の家へ薬を運びました。
凍えていた者へ食べ物を届けました。
町中の窓に、小さな光がともりました。
塔の大きな灯がなくても、町はもう暗闇ではありません。
それからしばらくして、城の番人が塔の灯を直しました。
大きな光が戻ると、人々は喜びました。
けれど家の小さな灯を消す者はいませんでした。
番人は不思議に思いました。
「大きな灯が戻ったのに、なぜ小さな灯を残すのですか」
一人の子どもが答えました。
「大きな灯が消えても、自分たちでまた明るくできるから」
町の人たちは二人の旅人へお礼を言いました。
「あなたたちが光を持ってきてくれたのですね」
けれど少年は首を横に振りました。
「ぼくたちが持ってきた光は、一つだけです」
少女も言いました。
「私たちが残したのは、光ではありません」
「光をともす方法です」
春が来ると、二人の旅人は町を去りました。
二人の名前も、どこから来たのかも分かりません。
ただ町には、小さな灯の作り方が残りました。
親から子へ。
子から、その次の子へ。
誰かが忘れても、別の誰かが覚えていました。
大きな灯が消える夜は、その後も何度か訪れました。
それでも町から、すべての光が消えることは二度とありませんでした。
本書に残る記録
本書には、これと似た伝承がいくつも収められている。
ある土地では、ニンゲン族が文字を教えたと書かれている。
ある土地では、病を治す知識を残したとされている。
国の決まりに対して「なぜ」と尋ねることを教えたという話もある。
伝承の内容は異なる。
しかし、すべての物語の終わりには同じ言葉が記されている。
黒き災いが訪れるとき、
失われし民が再び光をもたらす。
ここで語られる《光》が、炎や魔法を指すのかは分からない。
本書の最後には、次の一文だけが残されている。
ニンゲンは答えを与える者ではない。
今まで見えなかったものを、見えるようにする者である。